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福岡高等裁判所 昭和32年(ラ)141号 決定

抗告人 福岡県知事

訴訟代理人 川本権祐 外一名

主文

原決定を取消す。

本件文書堤出命令の申請を却下する。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人が提出を命ぜられた文書類は民事訴訟法第三百十二条各号に該当する文書でないから、抗告人にこれを提出する義務がないというのである。

よつて案ずるに、原決定に表示された文書に類する書類が福岡県民生部保険課に保管されていることは被審人川本権祐の審尋の結果によりこれを認めることができるけれども、右保険課がこれを保管しているのは福岡県社会保険医療協議会の事務処理としてであることもまた右審尋の結果により明かである、ところで社会保険審議会及び社会保険医療協議会法の規定によれば、保険医等療養担当者に対する適切な保険診療の指導に関する事項を審議し、及び勧告するため各都道府県に置かれる地方社会保険医療協議会(福岡県社会保険医療協議会も地方協議会の一つであると認める)は、当該地方の関係団体の推薦する利益及び公益を代表する者の中から都道府県知事が任命する非常勤の委員二十四名より成る合議体の行政機関であり(同法第十三条、十四条)、療養担当者の保険診療に対する指導監督に関する事項並びに病院、診療所等保険医療機関の指定及び指定の取消等の事項について知事の諮問に応じて審議し、及び文書をもつて答申する外、自ら知事に文書をもつて建議する権限を有し、(同法第十四条)、公益委員(六名)中より全委員(二十四人)が選挙した会長一人が置かれ、会長は会務を総理し、地方協議会を代表し、会議を招集する職権を有し(同法第十七条、第十九条)、協議会は議事手続その他運営に関し必要な事項を自ら定めることができる(同法第二十一条)等が定められて居り、これらの規定によつてこれをみれば、福岡県社会保険医療協議会は福岡県知事の補助機関又は附属機関ではなく、独立の機関であると認められ、同法第二十条の規定により福岡県民生部が協議会の庶務を処理するのは県知事の機関としてではなく、協議会の事務機関としてであると解すべきであるから、同民生部は原決定に表示された文書の保管については福岡県知事ではなく県協議会又は協議会々長の指揮監督を受くべきである、そうだとすれば右文書の所持者は福岡県知事ではないと解さねばならぬから、同知事に対し右文書の提出を命じた原決定は失当であり、これを取消すべく、本件文書提出命令の申請は適法でないから却下を免れない、よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 佐藤秀)

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